私の歯科医師としての原点
家族を介護度5から1へ・・・実体験から見えた歯の大切さ
「歯医者は虫歯を削るだけの、命にも関わらない、お気楽な仕事。」
・・・昔、読んだ本のアンケートでの、歯科に対する一般の方のイメージです。
ココまで悪意的な意見ではないにせよ、多くの一般の方は、似たような感覚でいるでしょうか? 実際、私も高校時代までは同じような意見で歯医者の仕事を認識していたように思います。
そしてそんな感覚が「当たり前」になっているからこそ、歯の大切さに目もくれず、21世紀になった現代でも、旧世紀と同じ病気が蔓延しているのでしょう。それどころか、全身症状に至っては、薬も治療法も進化しているにも関わらず、悪化しているものさえあるのが現実です。
2000年から介護保険法が作られ、今も介護を必要とされる方々が年々増えています。
ただ、介護はあくまでも“介抱する・お世話をする”ことと同義で、介護状態の打破にはつながりません。だからこそ、本人も含めすべての人々の負担が増えるのでしょう。
そんな時代だからこそ歯の大切さを知ってほしいと思い、このページを作りました。
高血圧と糖尿病から心筋梗塞、小脳・中脳2/3梗塞、眼底出血、腎症、MRSA感染、3回の転院、人工呼吸器も2度入れ、食事も排尿もチューブ生活。身動き一つできない介護度5状態に悪化したにもかかわらず、2年後には介護度1になり、3年目は片手を手すり、片手は焼き芋を乗せた皿をもちながら、2階までトントンと上がっていく。
・・・生命ってすごいんです。必要なのは努力ときっかけです。
このページは私の実体験ですので、“入れ歯”を中心にお話ししていきます。しかし本質は“歯”のことを話しています。ぜひとも今ある歯を大切にしようというモチベーションアップに役立ってもらえることを期待します。
審美歯科がなぜ大切か!
ココロのために・・・見た目の重要性
本人も家族も、思いもしなかった緊急入院。
人工呼吸器をつけるため、入れ歯をはずさなければなりません。
適切な処置をしてもらい、一命をとりとめ、ICUへ。
安定期となったことを確認し、普通病室へと移動されます。
病室に移動すると、家族も普段着のまま、面会することができます。
「 助かって良かった、良かった 」と声をかけ、生還を喜び合います。
そんなときに、倒れてから初めて鏡を見ます・・・。
倒れる前と何も変わらない家族の姿。
ひょっとすると、倒れる前よりも、優しく温かい笑顔でいてくれます。
それにくらべると、自分の手足ですらも重く、自由に動かせない感覚。
「どうなってしまったんだ・・・」という不安が頭をよぎります。
「入院したんだし、しかたないことか・・・」なんとか自分を励まそうとします。
すぐに、また同じ“ 日常 ”に戻れるはず・・・そんな思いで、鏡を見るのです。
数日前の見慣れた自分の顔。しかし鏡に映し出された顔は、
・入院生活で青白くなったハリのない肌
・生命維持のためだけの太らせない最低限のカロリー摂取で痩せた顔
・入れ歯が無いために シワクチャ になった皮膚
「誰だ、これ・・・」
命の瀬戸際で、浦島太郎の玉手箱を開けたようなショックが襲いかかってくるのです。
「目じりの小ジワが、最近白髪が、」・・・なんていっているレベルじゃない!
顔の1/2が、突如としてシワクチャになっている恐怖を想像してみてください。
家族は、ICUにいるときから、近くに付き添うことができるので、徐々に衰えていった顔の変化も、何日もかけて見慣れていきます。命が助かったという喜びで、顔の変化に気付かない家族もいます。体力が奪われ、鏡の中では別人のような老け込んだ自分。
それを、さらに追い討ちをかけるのが、見舞い客の視線の動きや驚きの表情。
玉手箱を開けた前後の違いを、哀れむかのような、ものめずらしがるかのような、今後の生活までをも心配するかのような、複雑な視線を受けることで、【 ホントウに別人のようになってしまったんだ 】と実感させられてしまうのです。
ココロの落ち込みに呼応するかのように、動きを止めるカラダ。
筋肉は萎縮し、関節は固まり、抵抗力は衰え、肺炎になって死んでゆく・・・
そんな悪循環が、かなり多いのも現実。
「入院中に入れ歯をはずすな」・・・最近ではよく言われる言葉です。
当然、口から食べることの大切さを実感する医師から、患者さんの回復を考えて発せられた言葉ですが、そこには隠れた“見た目”という意味もあるんです。
入れ歯は、顔のシワも少なくすることができます。見た目だけじゃなく歯が無いままだと舌が肥大化し、滑舌が悪くなるため、会話が伝わらないことも。入れ歯を入れることで舌の筋肉が引き締まり、ちゃんとした会話ができるようにもなるんです。
ご高齢になった方ほど、少し白めな歯を選ぶ・・・なんてこともココロのアンチエイジング効果を期待して、おすすめします。
ココロが落ちて、身体が重い状態では、リハビリをやりたがらない人も続出します。
しかし、身体が動かないだけでは、人は簡単には死にません。動かないことで廃用性症候群に。介護生活、数十年。これが一番の恐怖かもしれません。単に鏡を隠しても姿を映すものなどそこら中にあります。ココロが衰えることで実害を受けるのは家族といっても過言ではないのです。
噛み合わせ治療がなぜ大切か!
カラダのために・・・噛み合わせの重要性
1年後には介護度3になり、それまで足のリハビリも繰り返し、整体などで関節も滑らかに動くようにほぐしてもらったり、筋肉が付くようにトレーニングもしていました。
それなのに、歩くには“ おっかなびっくり ”。どこかにつかまらないと危ないと思うらしく、ものすごい握力で、壁やテーブルを掴みます。
歩幅は半歩・・・ほとんど“ すり足 ”で、自分の足(靴のサイズ)の半分程度しか、前に進めません。
ペンギンのような「ペタペタ」「ヨタヨタ」「グラグラ」・・・。
ちょっとしたことで転びそうになります。
もっと足に筋肉が付かないと ダメ なのか・・・?
ずっとこのままなのかなぁ。家族としても、どうすればよいのか わかりません。主治医は、最初から「助かるはずのない人」と言い切っていたのですから、頼りになりません。
それにリハビリに詳しい医師も数は少なく、理学療法などの専門に頼むと、病歴を見たとたん“ おっかながって(怖がって) ”何かあったら大変だからと“ そーっと、そーっと ”しか触ろうとしません。「それじゃリハビリにもならなかろう」
実際に足を触ると、確かに細い。4ヶ月以上寝たきりで、心身ともに弱りきった状態を経験すると、ここまで変わるものなのか・・・
そんなある日。入れ歯を作り直します。
当時は自宅の1階が歯科医院でしたので、小型のエレベーターを降りるだけ。
ユニット(治療椅子)に座るまでの歩きも、片手は杖・片手は壁で、「ペタペタ・ヨタヨタ・グラグラ」。完成したばかりの【 入れ歯 】を入れて、痛いところを微調整。
「あとは、ゴハン食べて痛むようであれば、また調整しようね」と、自宅へ戻らせようとした瞬間です。
「スッスッスッス」
「ちょっと待て!」あわててひきとめ「ちょっともう1回歩いてみ!」
1歩1歩の歩幅が広がり、バランスが良くなり、壁にも手をつかず、杖も浮かしたまま歩くのです。「今まで歩けない演技していたのか!」・・・そう問い詰めずにはいられないほど、極端な変化。「違うよ。今まではホントに歩けなかったよ・・・」自分でも何が起こったかわからないという顔。
そう、リハビリしていたため、歩くには十分な筋力が回復していた。
それなのに、バランスが取れなくてしっかりした足取りにならなかっただけ・・・。
そのカラダのバランスは、【 入れ歯 】を入れることで、瞬時に改善したわけです。
近年、ロボット開発が進み、2足歩行するものも多く見かけるようになりました。滑らかに歩くけれども、人間に比べると、なんか違和感があります。
それは、人間の歩き方が、【 カラダの軸を中心に、バランスを崩しながら前に足を出し、その反動を利用して今度は反対の足を出す 】・・・という、複雑なバランス感覚を駆使したものだからです。
そのバランスを失えば、それを補うために必要な筋肉量は膨大なものになります。
実際に歩けるだけの筋肉量があったにもかかわらず、歩けなかったのは、失ったバランスを補うには、もっともっと膨大な筋肉量が必要だったから、といえるでしょう。
肩こり、腰痛、偏頭痛・・・もしもカラダのバランスが崩れた原因で起こっているのであれば、同じように膨大な筋肉量を求められたため、筋肉が悲鳴をあげて、筋肉痛として助けを求めているのかもしれません。もちろんその原因は歯に限ったことではありませんが、歯に原因がある人も多くいるのが現実です。
腰が曲がってしまった人などが、一生懸命、街を歩いている姿を見るたび、アスリート並みの筋肉を使っているのではないだろうか、とその大変さを思うと涙が出そうになります。
残念なことに曲がったままの期間が長いほど、筋肉や関節が固まり、骨が変形し、たとえ原因が歯にあったとしても、歯だけで治すことはできない状態になってしまいます。
(強引に歯で治そうとすれば、曲がった腰が悲鳴を上げてしまいます。)
もっと早くお会いできていたら、ひょっとして・・・そう思わずにはいられません。